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「責任力」と品格本 2009年9月24日放送

 今回の総選挙、麻生前総理が盛んに使った「責任力」という良く考えて見ると分ったような、分らないような不思議な表現が民主党の「政権交代」という単純明快な訴えに完敗したようです。

 自民党のマニフェストのキャッチコピーとして「日本を守る、責任力」として使われている「責任力」をネットの辞書で検索して見ると、ヒットする項目はなし、つまり辞書にはない言葉なのです。優秀なスタッフが考えたのでしょうが、言葉としての違和感があるだけでなく、短期間に総選挙もやらずに3人も総理が代わり、未曾有の不況下で、「責任力」という言い方はやはりどこかチグハグで逆効果だったのかも知れません。私の友人などは、「責任力」ではなく、「責任能力」から「能」を取って「能無し」という意味ではないの・・・と上手いシャレを言っていました。

 「○○力」という表現は1998年に発刊された赤瀬川源平著のベストセラー「老人力」がきっかけとなって盛んに使われるようになったようです。「老人」という非力なものと、強さの象徴「力」を組み合わせた巧みな表現がヒットしたとされています。

今年の8月中に出版された本だけでも、藤原東演著の「煩悩力」、政治評論家・岩見隆夫著の「演説力」と続き、「逆境力」という本は、千葉県知事の森田健作氏と宮本延春氏二人の著者から同じ名前で出されています。金丸弘美著の「田舎力」、大橋禅太郎著の「行動力力」、斉藤孝著の「万有引用力」など枚挙にいとまがありません。

 2007年に出された作家・渡辺淳一のエッセー集「鈍感力」も話題となった本でした。時の安倍総理に対し小泉元総理が「鈍感力が大事だよ」と引用して話題となりました。政治家は「力」という字を好むのかも知れませんが、「○○力」ブームにあやかろうと「責任力」に頼ったとしたら、少し「品格」に欠けたのかも知れません。

 「品格」といえば、ちょっと前まではいわゆる「品格本」の大洪水でした。2005年に新潮新書から出版された藤原正彦著の「国家の品格」は、西洋的な合理主義ではなく日本特有の武士道精神や情緒の重要性を説いて、日本人はもっと自信を持つべきだとした名著で、発行後、半年間で265万部を越えるミリオンセラーとなりました。私の本棚にも、当時同じように話題となった阿川弘之著の「大人の見識」と並んで置いてあります。

 書名の「品格」は2006年の新語・流行語大賞を受賞、これに便乗するように「〜の品格」と名前の付いた本が次々と出版されました。

中でも、PHP新書から出版の坂東眞理子著「女性の品格」は300万部を超える大ベストセラーとなり、第2弾として出された同じ著者の「親の品格」も、子供とどう接するかをまとめた本で100万部近くが売られ幅広い読者から支持されているようです。

 その後、「日本人の品格」「男の品格」「県民の品格」「企業の品格」「病院の品格」「老舗の品格」と止まるところを知らず・・という様相で新刊本が次々と出されて行きました。品格本のピーク時の東京の大型書店「丸善丸の内本店」の談話では、「品格」を題名に含めた本は在庫があるだけで100種類近くに上り、店頭に並べられた本は30冊以上だったそうで、何かが起こると雪崩を打ってワッと走ってしまう日本の風潮を如実に物語る社会現象の一つと言えるでしょう。

 「自分の品格」「夫婦の品格」「老いの品格」「後継者の品格」「銀行の品格」などはまだ良い方で、中には「聖書の品格」や「韓国の品格」など何だか分らぬ題名や、「飲んべえの品格」、「ハケンの品格」「エロスの品格」「月イチゴルフの品格」「親バカの品格」「腐女子の品格」「不倫の恋の品格」など、何かと品格を組み合わせれば売れる本になるといった安易さで、首をかしげたくなるような題名の本も多いようです。私の場合は最初に出された「国家の品格」以外は一冊も読んでいないので、批評する立場にもないわけですが、何かが変で、「品格本の品格」という本でも出したら売れるのでは・・と思ってしまいます。

 杏林大学教授で日本語学が専門の金田一秀穂氏によれば、「品」は有名だとか、地位が高いというようなことを越えた“価値”を示す言葉であり、「格」も社会的な階層や具体的な地位を示すものではなく、その人が備えている威厳、オーラのようなもの。「品格」とは、従って、俗世間とは違った価値観を示す言葉だと説明しています。

 それにしては、いかにも俗世間らしい品格本の氾濫は、まさに“日本語の品格”を傷つけていることになるのかも知れません。「責任力」といい、「品格本」の氾濫といい、ジャーナリズムの一端に携わる者として正しい日本語は胆に命ずべき課題という気がします。

 
 
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