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恩送り 2011年1月6日放送

 1昨年の11月、新潟市の「朱鷺メッセ」で骨髄腫患者の会によるセミナー、シンポジウムが開催され注目を集めました。

「ガン・ファイターたち(骨髄腫患者の会の活動)」というタイトルで、患者の会で活躍している私の友人の話題を中心にこの番組で紹介しましたが、年の瀬にこの友人から「“恩送り”という言い方を知っていますか?」というメールが届き、いろいろと考えさせられる年末・年始となりました。

 仰げば尊としわが師の恩、ツルの恩返し、子を持って知る親の恩、恩に着る、恩を売る、恩を仇で返す、恩着せがましい・・などいろいろな“恩”が頭に浮かびますが、“恩送り”という表現はこのメールを受け取るまで耳にしたことがありませんでした。

 “恩送り”とは恩を受けた人に恩返しをするのではなく、代わりに他の人に親切を施すという意味で使われるようですが、国語辞典や漢和辞典を幾つか調べて見ても出ていません。ネット上の百科事典、ウィキペデイアではかなり詳しく解説されていました。

多彩な活動で知られ、昨年4月に亡くなった作家・井上ひさし氏によれば、“恩送り”は古くは江戸時代から日常的にあった概念だったとしています。徳島文理大学の教授でNHK文化センターなどでも講師をされている山下景子さんの「美人の日本語」という本の中でも“恩送り”が扱われています。

山下景子さん自身も、あの悲惨だった阪神大震災の時に瓦礫に埋もれてしまった状態になって見ず知らずの人に助けられたのだそうで、この時に受けた恩を何とか返したいが、誰かが分からず、それなら別の人に恩を送ることで感謝の気持ちを伝えたいとの思いがずっと彼女を突き動かし続けているという話をされています。

 “恩送り”という言葉を教えてくれた私の友人も、多発性骨髄腫という難しい病気に罹り、医師、看護師を始め病院の関係者、家族や親戚、多くの友人達からの支援を受け、これにどう報いるか考えさせられると言います。患者の会での献身的な活動の一方、俳句、絵画などの趣味にも打ち込み、時にはゴルフ、麻雀、会食などで親しい友人たちと付き合い、健常者の数倍も密度の濃い生き様に感服しているのですが、さらに最近では認知症の方のデイケアセンターで、ボランテイアとして利用者の送迎を始めた、これも支援に対する友人なりの小さな“恩送り”活動だと言うのです。

 “恩返し”は恩を受けた人に恩を返せばそれで話は終わってしまいますが、“恩送り”は、それを必要としている他の人への支援や親切を施すことで、それがまた次の人への善意として送られ、連鎖の輪となって多くの人へと繋がって行きます。いわば、善意のネットワーク化となって大きく拡がるわけです。

 “恩送り”の概念は欧米にもあるようです。2000年に米国で出版されたキャサリン・ライアン・ハイド著の「Pay it forward」は恩送りの考え方そのものであり、映画化もされています。

同時に「Pay It Forward Foundation」という財団も設立され、“恩送り”の考え方を世界中に教育し普及させることで、世界の未来は変えられるという信念のもと、多彩な活動が行われているようです。

 年の瀬も迫った1226日の朝日新聞の一面トップに「孤族の国の私たち」という大きな見出しの記事が出て驚ろかされました。

去年10月のこの番組で「主流は単身市場・・」というタイトルで、単身世帯が急増中、身元不明のまま亡くなる“行旅死亡人”や孤独死、自殺者が増える傾向にあり、高齢化社会の急速な進行でさらに拍車がかかるという話をしました。

 今回の朝日新聞の記事は「個から孤が加速」というサブタイトルで一面、二面も使うという大きな特集記事でした。

2020年代―団塊世代が後期高齢者となり死亡が出生の倍、2030年代―団塊ジュニアも中高年で独居が4割に迫る・・といった見出しが躍っています。家族に頼れる時代が終わり、孤独死は40歳代から高いリスクで、まさに“孤族の国”になってしまうという警告です。

最近報じられる、人知れず孤独で死んで行くといった多くの悲惨な事件は、“無縁社会の闇”を象徴しているようで心が痛みます。

我が身を振り返っても、いろいろな形で受けて来た多くの人達への恩返しも出来ていないことに唖然とし、もう返し切れない恩ばかりです。“恩送り”なら、小さなことから、少しずつ、出来ることをやれるのかも知れません。皆が恩送りを心掛ければ、親切、善意の輪が拡がって無縁社会に灯りが燈る・・感動を呼んだ、必死の激走でタスキをつなぐ箱根駅伝にも“恩送り”の象徴を見た気がします。 

 
 
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